高層ビルが林立し、メタリックなボディのクルマが縦横無尽に走りまわる現代の巨大都市、東京、香港、ニューヨーク・・・。カメラを持ってこれらの都市を歩きまわると、ファインダーを通してにわかに都市のダブルイメージが現れてくる。
巨大ショッピングセンターの中は人工の青空でおおわれ、人工の噴水や人工の川までもが丁寧にしつらえられている。心地よいこれらの人工の自然には古代から人間に親しくしてくれていた精霊たちはもはや存在しない。
都市を彩る唯一の自然である雲や太陽が都市のテクスチャーに反射する瞬間、この巨大都市の未来が告げられるかのようだ。
母なる大地である土をコンクリートで封印してしまった巨大都市は生き物が生存するにはそもそも不毛な場所であるが、人間があらゆる束縛から解き放たれて自由になれる、という幻想を極限まで高めてくれる場所でもある。その幻想をささえるために膨大なエネルギーが消費されなくてはならない。
都市の発展は人間の多様性や創造力を飛躍的に高めてくれたが、その巨大さが臨界点を超えようとしている今、都市のありようは根源的に問われなければならない。
このシリーズの最終イメージはなかなかうまく表現に定着することができなくて長い期間撮影だけが進んでいた。そんなおり、写真の大先達である川田喜久治氏のインタビューをとることができて、氏の言葉の中にあった次のようなフレーズが大きなヒントとなって一気に最終イメージが定着できることになった。
「いま、いたるところがカオテックになっている。それが人間の細部に見える。構造の頂点が独裁や暴力性を主張するほど、アートや写真だって変わらないのが不思議です。ストレートな写真だって変わっていくでしょう。ドキュメントがいつの時代も同じスタイルでいいはずがありません。失われた色へ、あるいは異物化された色彩へと当然変わります。それはフォトショップをうまく使った方がリアルになるかもしれません。もちろん、つかわなくてもそうなっていくと思います。感覚というのはトータルに変わるものです。」