2014年6月20日


編集をお願いした米澤敬さんが編集長をしている工作舎にて打ち合わせ。グラフィックデザインは羽良多平吉さんが担当。羽良多さんは稲垣足穂の本を初めとして工作舎の雑誌・単行本のグラフィックデザインを数々担当してきたが、工作舎に来社するのは久々ということだった。


『福福星 Star of the Stars』の写真集は2011年に新宿のデカダンスバーでプチ展覧会をしたときに羽良多さんがきてくださって、そこでぼそっと「これ、写真集にするのなら僕がデザインやってもいいけど・・・」というつぶやきを永田がききつけてそこから構想を練りだした。当初は300ページくらいの厚さでコミック本みたいなかんじのものを考えていたが、印刷見積もりをとったりしているうちにえらく予算がかかりそうなことがわかってきて挫折。その後、日本の印刷機メーカー・小森コーポレーションの筑波にある研究所などをたずねてコラボできないか、ということも検討してみたが担当の武井さんから「我が社は3年連続赤字なんで今はちょっと・・・」という話があり、これも断念。小森コーポレーションには福福星の写真を使った展示会サンプルブックをヘキサクロームで作成していただいた経緯がある。


写真集の構成には、色彩の体験ができて最後には白になっていく、ということを考えていたため、こうなったらヘキサクロームでページ数を少なくしてやろうという気持ちにだんだんなってきていた。小森コーポレーションのサンプルブックを担当した研文社で120ページB4版の見積もりをとってみたところ、予想外の570万円という見積もりが出てきてひっくりかえる。こりゃだめだ、と落胆していたところ研文社の担当者から校正プロセスを省いたり、判型を経済的なサイズにすることでもう少し安くなります、というメールが届いた。小森コーポレーションのご好意で小森コーポレーションで研文社の担当者とお会いして、それじゃ、逆に印刷費250万円で何ページくらいのものができるのか、という見積もりを取ってもらうことにした。その見積もりをみて写真を64点くらい使ったA4版写真集という形が見えてきたのだ。





デヴィッド・ラチャペルの写真集のような箱入も検討されたが、結局、羽良多さんから提案のあった平綴じでカバーが別サイズで中側にはさみこまれているスタイルにすることに決定。





編集を担当してくださった米澤敬さん。工作舎の辣腕編集者。昨年は『ビートルズの遊び方』というビートルマニアが泣いて喜びそうな本を出版している。





テキストの執筆を入間カイさんに依頼。入間カイさんはルドルフ・シュタイナーの翻訳・研究者である高橋巌氏のご子息。永田の娘の通うシュタイナー学校ですばらしいメルヘン論講座をされたのを永田が聞いて感動、テキストをお願いしたところ快くひきうけてくださった。工作舎時代には雑誌『遊』の編集で高橋巌氏には大変お世話になっている。これで親子2代にわたってお世話になることになった。写真は永田のオリジナルプリントをていねいにみてくださっているところ。








ヘキサクローム印刷を担当してくださった研文社は6色印刷の技術に早くから注目して独自の開発をしていたが、結局アメリカのパントン社のヘキサクローム技術を導入することになった。日本での普及のためにヘキサクローム協会までつくったのだがコスト面の問題などで残念ながら日本では一般的な普及にまではいたっていない。写真家の方ならデジタル技術が導入された初期の頃にRGB入稿できる印刷技術ということでご存じの方も多いと思う。この技術が一般的になっていたらデジタル写真の入稿はとても楽になっていたはずなのだが。そんなわけで、研文社のヘキサクローム印刷の高い技術は日本ではオンリーワンの技術になっている。


とはいえ、とにもかくにもヘキサクローム印刷は高くつく。通常の印刷はYMCK(イエロー・マゼンタ・シアン・ブラック)の4色だがヘキサクロームはこの4色にくわえて、オレンジとグリーンの2色のインキが加わった6色になる。
研文社さんからの提案で色校正の部分を大阪の研文社さん工場まで行って1回で終わらせることで経費を大幅に削減してもらうことにした。


入校用の各データもさらに念入りに細かい手直しを事前に行ってから入校した。もともとこの作品の撮影はコダックの初期デジタル一眼カメラPro14nで撮影している。このカメラはモアレ除去用のフィルターがはいっていないためとてもクリアに再現ができるのが特徴だが、後処理なしだと画像データの完成度が不十分だ。また感度も1600までしかなく、しかも1600まで増感するとノイズが目立つようになる。さらに撮影は手作りの家庭用丸型蛍光灯を光源にしているが(かなり後期になってから市販のリング型蛍光灯に変換した)このために画像には部分的に緑色の不規則なかぶりがでることがある。そこを面白いとしていることもあるのだが、肌の色の調整を部分的に細かく調整していく必要があった。


入稿に際してはインクジェットのオリジナルをプリンティング・ディレクターの三浦芳裕さんに見てもらって、このプリントにこだわらずにオリジナルデータからヘキサクローム独自の表現で最高のものをお願いします、とお伝えした。


最初の校正を見たときの第一印象は色の再現性やディテイルの描写にかんしては想像以上の仕上がりになっていたが、全体的にはやや画像が沈んで見えるな、ということだった。プリンティング・ディレクターの三浦さんが独自の判断で300線の高精細、AM,FMという網点技術を絡ませる技を使用していた。そこでよく目をこらしてみると画像の細部の再現がすばらしい。
それでも全体感が大事なので三浦さんと相談しながら、色校正の指示をお伝えしていった。おおざっぱな指示は背景の黒からポートレートが沈みこまないで、浮き立ってくるように、ということだった。各ページにも細かい指示をだした。このあとは本番にすぐにいくわけなので、ここで三浦さんとよく意思伝達ができないとアウトだ。



研文社さんの工場は明るく清潔な環境で気持ちがいい。



結局、製版段階でもフォトショップで調整する。



コモリの印刷機LITHRONE S29P。でかい。





UVインクを使って紫外線乾燥するので、すぐに裏面の印刷に移れる。






その日その日の環境で微妙な調整をかける。







結局、三浦さんと細かく意思疎通したおかげで本番の刷りだしはすばらしい出来になった。


さらに中に挟みこまれるカバーとテキストのパートは羽良多さん御用達の印刷会社深雪印刷でおこなうため、研文社で印刷したヘキサクロームの部分を東京に送ってもらうことになった。
問題は製本で、